去年の9月、23歳から勤めてた会社にリストラされた。
超円高で数年前から会社が傾いてたので、いよいよかと覚悟はしてた。
もう頃合いなのかなって思いもあったから、地元で就活でもと思い始めてた。
そこで情報収集と少しの観光を目的として帰省することにした。
ずっと行きたかった伊勢神宮へ行き、参拝してフラフラしてた。
そこでふと新幹線の中で見かけた女性に目が止まった。
新幹線の中で1度だけ目が合った時、あまりの好みでドキッとした。
だから忘れるわけもなく、その女性が同じ所で観光してる事実に胸が踊った。
新幹線でも伊勢神宮でも彼女は一人で、誰かと来てる感じがしない。
しかも雰囲気が暗くて寂しそうな背中だった。
当然彼女は俺のことなんて眼中になく、目すら合ってなかったと思う。
みっともないがその後少しだけ彼女の後を追った。
一人でフラフラ観光をする彼女に興味津々。
でも平日だったから人通りがなくなるとかなり怪しい。
泣く泣く尾行を諦めて宿泊先へと向かった。
夕方過ぎにホテルにつき、近所をフラつき散歩してた。
そこでなんとまた彼女に遭遇したんです。
これはもう運命としか思えなかった。
彼女はガラガラと音を鳴らしながらキャリーバッグを引きずって歩いてた。
人生でナンパなんてした経験はない。
どうやって声を掛けようか緊張をしながらしばし見惚れてた。
すると急にこっちを振り返ってきて、俺とバッチリ目が合った。
距離にして10m弱。
視線に気が付いたのかと思ったので、慌てて海へと視線を外した。
タバコを吸っているとガラガラ音が近づいてくるのが分かった。
何なんだ、どうしよう、超テンパった。
「スミマセン・・・」
彼女の声がして振り返った。
「あっはい、何ですか?」
「昔そっちに※※※※※っていうレストランあったと思うんですが」
「えっ?」
「ご存知ありませんか?」
「あぁ、いや~御免なさいね。俺地元の人間じゃないんで」
「あっ!そうなんですか!御免なさい」
これは絶好のチャンスだと思った俺は、一気に喋り倒した。
「俺そこのホテルに泊まるから、そこで聞いてみようか」
彼女は迷惑だからと言ってきたが、強引に押し切ってホテルへと連れて行った。
ロビーで聞くとその店は移転してて、今は歩いて20分ほどの地域にあるという。
彼女にそれを伝えると、俺にお礼を言ってそのまま行ってしまった。
「暇だし俺も途中まで行きますよ!」
気の利いた言葉が出なかった俺は、彼女を追っていってそう声を掛けた。
当然「大丈夫ですから」と言われたが、旅は道連れって言うでしょと笑って勝手に歩き出すと、なんと彼女も「そうですね」と笑って歩き出してくれた。
「どこから来たんですか?」「俺は都内から来たんですよ」
俺からの一方的な質問にも、彼女は嫌そうな顔もせずに答えてくれた。
彼女も都内に住んでて、一人旅中だという。
昔来て良かった観光地を巡っているとか。
「今日はここらへんに泊まるんですか?」
「そのつもりだけどまだ部屋取ってなくて」
「だったらさっきのホテルイイっすよ、安いしメシも美味そうだし」
「でも・・・」
「レストランの近くにあるかもしれませんしね」
「そうですね・・・」
俺が泊まるホテルの話をしてから、急に彼女のテンションが下がっていくのが分かった。
何か変な事言っちゃったかな、と思いつつもずっと喋り続けた。
20分とか言ってたけど、ゆうに30分はかかった。
しかも小高い山の中腹にありやがる。
周りには店もホテルも何もないから、思い切って聞いてみた。
「そのレストランで食事するんですか?」
「いぇ、思い出の店なのでコーヒーでも飲もうかなって」
「でしたらご一緒しません?喉乾いちゃって」
「ですよね、こんなに遠いとは思わなかったですよね」
「お邪魔でしたらサクッと帰りますので」
「いいえ、大丈夫ですよ」
客が疎らな店内の窓際で、コーヒーを飲みながら俺は喋った。
リストラされた事、就活と旅行で来た事、勝手にベラベラ喋った。
それを彼女は相槌を打ちながら聞いてた。
年下に見えたけど彼女は28歳で俺は26歳。
リストラ話に引きづられたのか、やっと彼女は一人旅をしてる理由を教えてくれた。
7年間付き合って同棲もしてた彼氏と別れたという話。
結婚も約束していて彼氏が30歳になる前には式を挙げようとも話してたみたい。
元気付けようと俺は必死に自分の不幸話しをした。
やっとできた初めての彼女に、付き合って1ヶ月しないうちに浮気された話。
社内の子に告白してフラれたら、次の日には社内に広まってた話。
付き合いたくて頑張ってたら、実は俺をゴチ部隊とて使われてた話。
過去に3人の子と本気で付き合い、その3人に浮気されて最後はフラれた話。
そんな俺でも笑ってるんだから元気だしなよ!そんな話をベラベラ喋ってた。
さすがに俺の方が不幸過ぎると思ったのか、最後の最後にやっと打ち解けてくれた。
「旅は道連れ」その言葉が気に入ったようで、俺と同じホテルに泊まると言い出し、そこで電話して部屋を予約してた。
「じゃそろそろ夕飯だし美味いもんでも食べよう!」
二人で来た時よりも喋り合いながらホテルへと戻った。
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