いつだったか、何となく違和感を感じた事があった。
仕事から帰ってきてまず着替える為に寝室に入る。
着替えて洗面所へ行き顔を洗う。
リビングへ向かい夕食を取る。
夕食がまだの時は風呂を先にする事もあるが。
そんな流れの中で、どこか分からないけど妙な違和感を感じた日があった。
言葉じゃ言い表せない不思議な感覚。
何か変な事があるわけじゃないので、そのまま違和感を忘れていく。
でもその後、不思議な違和感を月に1回か2回ぐらい感じるようになった。
忘れた頃にまた違和感を感じる。
だから毎回解決せぬまま忘れていく。
ある日、重要なUSBメモリを忘れた俺は、大急ぎで取りに帰った。
会社から片道50分なので、かなり大急ぎだった。
鍵をあけて玄関に入り、廊下を走りリビングへ。
テーブルの上に朝のまま置いてあるUSBメモリを発見しポケットへ。
すぐにリビングから廊下に出て靴を履く。
この時だった。
いつも感じていた違和感を強く感じた。
ずっと気が付かなかったが、その時はハッキリと分かった。
ニオイだった。
寝室に入るとそのニオイは強くなった。
その瞬間、何のニオイがスグわかった。
ザーメンのニオイだった。
そんな強烈なニオイじゃないが、薄っすらと漂ってるような。
精子ティッシュに出してゴミ箱に捨てたら強烈にニオイでしょ?
あんな強烈な分かりやすいニオイレベルじゃなかった。
ゴミ箱には不自然な塊が幾つか入っていた。
嫌だったが指先でつまむ上げると、途中でニオイの元だと分かった。
俺以外の男が、夫婦の寝室でザーメンを出している。
嫁が浮気してる。
膝から崩れ落ちた。
ゴミ箱にはティッシュの塊だけで使い終わったゴムはない。
避妊すらしてないのか。
全身の力が抜けていった。
記憶がすっぽり飛んだのでよく分からないが、後輩からの電話で正気に戻った。
「メモリありましたか?」っていう確認。
「あっ、あぁーあったから今から急いで向かうよ!」
慌てて部屋を出た俺は、無我夢中で駅に向かって走った。
汗だくになるほどダッシュしたおかげか、電車の中では妙に冷静だった。
嫁とは夫婦仲が悪いって事もない。
付き合いも入れると、もう10年近い間柄だ。
だからそんな頻繁にセックスする事はないが、レスってわけでもない。
俺が誘っても「疲れてるから」ってお断りされる事もあるぐらい。
かといって不仲ってわけもない。
一緒に買い物にも出掛けるし、そのまま外食も普通にする。
映画はムリだけど、DVD鑑賞なら普通にするし。
口喧嘩をする事はあるが、そんな長引くような性格でもない。
共働きなので嫁の帰りが遅い時は、俺が夕飯を作ったりもする。
嫁の仕事がもう少しで落ち着くので、そうなったら子作りしようって決めてた。
考えても考えても、嫁が不倫してるなんて考えられなかった。
まさか俺のザーメン?
いや、昨晩は酒飲みながらDVD見て、先に嫁が寝て、続いて俺も寝た。
寝てる時に嫁が何かするわけもない。
やっぱり俺の精液じゃない。
最寄り駅からまた会社までダッシュ。
会議には間に合ったが、さすがに心ここにあらずだった。
「ダッシュして疲れちゃったよw」
そういって後輩に任せたので、仕事はそつなくこなす事が出来た。
問題は終わってから。
帰宅する足が重くて仕方がなかった。
だって嫁が待ってるんだから。
自宅の最寄り駅につき、俺はずっと考えていた友達に電話した。
2年ほど前、そいつ離婚したんです。
奥さんの浮気が原因でね。
酒飲みながらだけど、苦労話聞かされたんです。
あの時は全く他人事として聞いてたが、まさか自分にも降りかかるとはねえ。
勇気を振り絞って相談してみた。
事情を説明するといろいろアドバイスをしてくれた。
まずは証拠をおさえろって。
限りなく黒だと思うけど、証拠がなければ話にもならないんだからって。
最後にガツンとくる事を言われた。
浮気してた奥さんと、これから数十年一緒にいられるか?
子供も作って普通の生活が送れるか?
よく考えた方が良いぞ。
電話を切った後、しばらく頭から離れなかった内容。
もし嫁が浮気をしていたとしたら、俺はその嫁を許す事ができるのだろうか。
許してまた以前と変わらぬ生活を送っていけるのだろうか。
答えなんてそう簡単には出ない。
だからとりあえず証拠集めに専念する事にした。
帰宅すると嫁はいつもと変わらずだった。
当たり前だけど食欲なんてわかず、軽く食べて終わりにした。
このままじゃ眠れないと分かっていたので、ウォーキングに出掛けた。
ランニングしたりウォーキングしたりで約8km。
これをやると疲れすぎて、意識が飛びそうなぐらいの眠気に襲われる。
その日も風呂から出てビール飲んだ直後に爆睡する事が出来た。
次の日の朝、いつもより早く家を出た。
嫁と長く顔を合わせたくないから。
証拠集めと言ってもハンディカムを新たに購入する余裕はない。
1台どころか数台購入なんてまずムリだし。
撮影時間などの問題もクリアーできない。
結果辿り着いたのはICレコーダーによる音声録音だった。
ICレコーダーなら会社の物を借りれば何台でもある。
これを部屋ごとに置いておけるし、何より録音できる時間が長い。
一応上司の了解を得てICレコーダーを4台用意した。
リビング、寝室、お風呂、玄関の4箇所に設置した。
お風呂はジップロックに入れて俺用のシャンプーボトルの中に入れた。
機種によると思うけど、これでも全然音が録音できるから凄い。
想定外だったのは電池の消耗だった。
朝セッティングして夜止めるとしても15時間は稼働する。
それぐらいの出費で済んだのだから文句言っても仕方がないが。
セッティングしてから2週間。
内容を確認すると嫁の顔をその時以上に見れなくなると判断。
溜め込んで一気に確認する事にした。
調査を始めて2週間と3日経過した土曜日。
嫁が近所に買い物へ出掛けた隙きを見て中身のチェックをした。
ほぼ無音なので再生速度を上げても余裕で確認できた。
音が入っていた時間と終わった時間をメモし、全てを一気にチャックした。
思いの外早く終わった。
ただ愕然とした。
何箇所にも音声が入っていたからだです。
午後になり買い物に行くと行って駅前の満喫へ。
ヘッドフォンをしながら音源を確認しながら涙がとめどなく溢れ出てきた。
俺は嫁を根本的に勘違いしていた。
嫁は毎晩でもセックスがしたい淫乱な変態女だった。
セックスに関しては蛋白で、性欲は人並かそれ以下だと勘違いしてた。
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