広尾、初台そして高円寺。
最終的に残ったのは恭子だった。
知らなかったのだが、恭子の家は十条らしい。
そこに一軒家を購入して、3年前から住んでいるようだ。
旦那さんの収入が良いのだろう。
後ろに1人しかいないのに私が助手席にいるのも変だった。
私はコンビニでコーヒーとお茶を買い、後ろの席に移動した。
恭子にお茶を渡す。
さっき分かった事なのだが、実は恭子はけっこう酔っている。
少しでも酔い覚ましにと、お茶を買ってあげたのだ。
十条までは環7で30分ぐらい。
タクシーの中で吐かれても困る。
そう思っただけなのだが、恭子は勘違いしていた。
『中島さんて優しいんですねぇ~』
ニッコリと笑いながら頭を下げる恭子。
ちょっと呂律がまわっていない。実は思っている以上に酔っているのか。
いつもの綺麗な女性というより、可愛い女の子になっている。
しかも頭を下げた時に、またしても恭子の巨乳が目に入ってしまった。
東武東上線を越えた頃、突然渋滞していた。
道路工事の為に、片側一車線の規制中らしい。
運転手は他の道に行くか聞いてきたが、もう急いでも変わらない時間だ。
このまま行ってくれと伝えた。
『都内に一戸建てなんて凄い旦那さんですね』
恭子は口を尖らせながら言った。
『全然!彼のご両親が持ってた土地に建てただけですもん』
『そっかぁ~でも羨ましいよね。俺なんて狭いマンション暮らしだよ』
『うちはまだ子供がいないから、広すぎるって感じです。
中島さんはお子さんいるんでしたっけ?』
『まだまだ。いまできたら生活できないよ』
正直な気持ちだった。
本当はカミさんが欲しがっているのだが。
『こんな時間になって、旦那さん大丈夫?』
『大丈夫ですよ、彼いま出張中でいませんから』
『そっか。じゃ~広い家で寂しい夜なんだね』
笑いながら言った。別に他意はない。
その後はお互いに黙ったまま、渋滞の車の中にいた。
ようやく規制中の道路を通過して十条に近づく。
ふと横を見ると、恭子は寝ていた。
つづく。
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